底が浅くて上すべり。

人との縁というのは永遠ではなく、いつか必ず切れてしまうものです。
諸行無常、生々流転。
常なるものなどないのが世の常であります。


私にはその時、縁が切れる音というのが聞こえてしまうのです。
「ブヂッ」とでもいうような鈍い音が、本当に。


その音が聞こえてしまった相手とは、その後二度と会う事はありません。
今までずっとそうでした。


去年の暑い夏の日、「ブヂッ」とその音が聞こえてから約半年。
それから一度も会う事のないまま、
ついに今日という日を迎えました。
もう、一生会う事はないと確定する日です。


けっこう長いつき合いだったけど、
別れの言葉を伝える事さえ叶いませんでした。
それは、私からの言葉など必要がないということなのでしょう。


あいにく私も、かける言葉など持ち合わせていません。


「ああ、もうすぐ、これは切れる、切れるぞ」
以前からそんな予想はしていたから、
会えなくなる事自体は何も悲しくはないのです。
今まで何度もあったことですから。


ただその音で、私の人生が変わってしまったのは予想外でしたね。
全てをあきらめ、全てを捨てる覚悟ができたのです。
昔からずっと憧れ続けた、最高の境地に達する事ができたのです。


もう迷わなくて済む。
今の私は湖面のように穏やかな心もちなのです。
私に心の平穏をもたらしてくれた事には、大変感謝しています。


もう、その気持ちを伝える事はありませんけどね。

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